あれはそう、確か雪がしんしんと降り続ける日だった。
オーナーのビルちゃんが、パーティーなのか会合なのか、はたまたナイトクラブなのか知らんが、昼頃からどっかへ急に出かけて行ってしまった。
腹が減った俺は、キッチンで何か作ろうと思って一階に降りた。そして俺は驚いた。
もっこすうううううううううううううううううううううううううううううううううう!?
もっこすが家にいる!いつもビルちゃんにベタベタ可愛がられて、寝るのも散歩もいつも一緒で、ビルちゃんが出かけるときには必ず連れ出されるはずなのに。
もっこすは尻尾を振りながら俺をまじまじと見ている。
こいつ、遊んで欲しいのか?と思って、もっこすが咥えていたおもちゃを取ったり隠したり投げたり踏んだりパンツに入れたりして、もっこすとしばらく遊んでやった。
きりの良い所で一階に降りてきた本来の目的である昼ごはんづくりにとりかかった。
しかし、俺にとってもっこすにとって、この夜が最悪な夜になることをこの時はまだ誰も知らなかった・・・。そう、誰も。
夕べの残りをあっためたやつを食べて満足した俺は再び二階に上がった。階段を登る俺の姿をもっこすはじっと見ていた。しかしこれはいつものことで、この時は特に問題がないように見えた。
それから勉強したり、妄想したり遊んだりして、眠くなったので、しばらく眠ることにした。
眠りから覚めて、部屋を見渡すとあたりは日が落ちて暗くなっていた。
窓から見える景色ももうすっかり夜と化していた。時計を見ると、時刻は午後8時前を指していた。
さすがにビルちゃんは帰ってきただろうと思って耳を澄ましてみたが、物音が何も聞こえない。
部屋を出て、試しに一階に降りて見ることにした、そして俺は驚いた。
もっこすうううううううううううううううううううううううううううううううううう!?
もっこすが家にいる(パート2)!いつもビルちゃんに...以下省略
真っ暗な部屋の中にもっこすと、さらにネコスマルまでが一緒になって目を爛々と光らせながら俺を一斉に見た。
俺は心底同情した。
だってあれだぜ?大好きなご主人様に昼頃から見捨てられて暗い部屋の中をいつ帰ってくるだろうと窓をちらちら見ながらひたすら待っているなんて悲惨だぜ?
そうこうしているうちにさすがに俺も腹が減ってきたのでキッチンに向かった。するともっこすもネコスマルも迷わずついてきた。相当腹が減っているに違いない。
試しにもっこすのエサ皿を覗いてみた。
そこには少しの水が入っているだけだった。
もっこすうううううううううううううううううううううううううううううううううう!?
お前水しか飲んでないのか!!?食いしん坊のお前が!?
衝撃の事実を目の当たりにした俺は、以前ビルちゃんが犬用のエサをしまっている場面を必死に思い出して、夕飯作りよりも先にまずもっこすにエサをあげようと考えた。
犬のエサが入った袋を持ち上げると同時に、ふと嫌な予感がした。
・・・この袋、でかい割にめっちゃ軽い。
そっと中を覗いてみると、中にはホントに僅かな量しか入ってなかった。もっこすはというと、エサをもらえる喜びのあまり何度も舌なめずりをしまっくてる。
よし今やるからな!と俺はエサ皿に勢いよくエサをぶちまけたが、また嫌な予感がした。
もしビルちゃんが今突然帰ってきたとしたら、めっちゃ怒られるんじゃないだろうか。「テメェなに勝手に俺の犬にエサやってんだよコノヤロウああん?」的なシチュエーションになったら俺はおしまいだ。せっかく素晴らしい住処に辿りつけたのに、些細な行動のせいで追い出され、さよならを言わなければならなくなる。
そう思うとめちゃくちゃもっこすには申し訳ないが、エサを撤収せざるを得なくなってしまった。もっこすは嬉しそうにバクバク食っていたのだが、俺が素早くウアアアアアアアアア!って皿を取り上げエサを袋に戻したので、「え、嘘やん!?」みたいな表情をした。すまないもっこす!俺が生きるためにはこうするしかなかったんだ・・・!
ネコスマルは離れた場所でその光景を見守っていたが、あいつだってエサを食べていないのだろうな。なんてかわいそうなやつなんだ。
・・・よし。まずは夕飯を作ろう。そんで、食べれそうな食材を少しだがあいつらに分け与えてやるとしようではないか。
ということで。夕飯を嵐のごとく作り上げ、炊いたご飯を少し別に寄せておいた。これはもちろん、もっこすとネコスマルに与える分だ。料理中に、何度ももっこすが行ったり来たりして落ち着かなかったのを見て、だいぶあいつの空腹はキテいるに違いないと悟った。
とっておいたご飯を水に少しさらして冷まし、いよいよもっこすとネコスマルの元へ。
まずはネコスマル。ご飯を少し手にとって目の前に置いた。ネコスマルは「なんだ貴様は」って感じでご飯をクンクンしたが、目を背けてどこかへと去ってしまった。ご飯って目を背けるほど異臭がするのか?よくわからん。とにかくネコスマルのターンは終了した。
次はもっこすのターン。ご飯をさっきと同じように目の前に置い早ッ!!!
雷鳴より早いんじゃねーのってぐらいに瞬時にたいらげやがった。もっこす恐るべし。
結局ビルちゃんはその時も帰ってこなくて、ネコスマルはまた離れた場所から俺を見ていて、もっこすはあるだけのご飯を全て完食して、俺はその横で夕飯をとった。
ちなみにその日の俺の夕飯は甘ったるい野菜炒め。醤油とカナダ産マヨネーズを融合したらこうなってしまった。ふん。食べられるものにはなったからまだいい。
ただ、フライパンの底にこびりついたせんべい状になったタレまで根こそぎ取って皿に盛ったのだが、もっこすは(ご飯を完食した上で)俺と料理を見比べて舌なめずりをしているので、本当はあげちゃアウトなんだろうけど、同情のあまり俺はせんべいの部分を譲ることにした。
あげている様子は下記の通りである。
俺:うぉら(投げる)!
もっこす:パクッ(食う)
俺:うぉら(投げる)!
もっこす:パクッ(食う)
俺:うぉ(投げるフリ)!
もっこす:パクッ(食う)
俺:うぉら(投げる)!
もっこす:パクッ(食う)
もっこすは満足したんだかしてないんだかわからんが、とにかく無事に夕飯を済ました俺は、休憩のために二階へ上がった。するとさすがに心細くなったのか、もっこすもネコスマルも一緒に二階へついてきた。
そういえば猫は何も食ってないんだったというわけで、こっそりビルちゃんの部屋に侵入して、ネコのエサを取り出し、ネコスマルにエサを少し与えることに成功した。やっぱりご飯よりカリカリだよな、ネコスマルお前は。
ネコスマルの腹も落ち着いた所で、俺は一安心して部屋に戻ろうとした。
だが、だめだった。なぜなら潤んだ瞳であいつらが俺を見るから。負けたぜ。
しょうがないので俺はもっこすとネコスマルと、廊下で一緒にすごしてやることにした。俺って優しいところもあるんだぜ、だろ?
廊下にごろりと寝っ転がると、もっこすはすぐに俺に体を寄せて寝っ転がって顔を攻撃(したでなめる)してきやがった。寂しさのあまり、もっこすはベロベロがいつもよりスーパーでした。
かと思うといつの間にか足元にはネコスマルがスリスリしまっくている。ワンニャンパラダイスじゃねーか。
そんなこんなで時々話しかけてやりながら、俺ともっこすとネコスマルの三人で身を寄せ合いながら、寒い家の中で朝になるのを待った。まさに、心温まる友情が芽生えた夜となった。
はずだった。
深夜0時頃。急に、玄関がガチャンと開く音が家中に響き渡った。
ビ、ビルちゃん!!と思った瞬間にもっこすは俺を思いっきり踏んづけて、尻尾をバシッと俺に当ててからさっさと一階に降りていった。一階からは、ビルちゃんのもっこすへの甘い言葉が聞こえてきた。
おいおいおいおいおい俺の親切はどうなった?
俺達の友情はそんなもんなのか!?
なああああもっこすうううううううううううううううううううううううううううう!!!!!!
ふと足元を見ると、ネコスマルが俺を見上げてこう言った。
「俺はお前を捨てたりはしないぜ心の友よ」
ああ、ありがとうよネコスマル。俺はやはり断然猫派だな。
「ただ一つ条件がある」
なんだよ俺達の仲じゃないか。言ってみろ。
「お前のベッドは俺のものだ」
・・・お前はジャイアンか。
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